大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長野家庭裁判所上田支部 昭和34年(家イ)42号 審判

申立人 三沢中(仮名)

相手方 三沢正子(仮名)

主文

申立人が長野県小県郡○○村大字○○一二番ノロ畑(相手方の畜舎と薪小屋との間)に対する宅地に転用の許可を得た上は、相手方は速かに該土地に住宅を建築しなければならない。

相手方は前項住宅を建築するまでの間申立人肩書地所在建物の内階下玄関にある階段、北側居間六畳、茶の間六畳、穀物部屋、味噌部屋、勝手四・五畳その土間並びに階上蚕室、居間六畳、物置と便所(三坪五合)一棟を無償で使用することができる。但し上記穀物部屋及び便所は申立人との共用とする。

相手方が第一項の住宅を建築するまでの間当事者並びに申立人の妻ひさのは互に相手の平和な生活を妨げる一切の言動をしてはならない。

理由

申立人が事件の実情として述べるところによると、申立人は長らく他出し、妹である相手方が母みえを扶養しながら営農してきたが、相手方は肩書地住宅その他一切の財産を自由にしようとして老令の母を説得したが、母がこれに応じなかつたので、母に対し相当な扶養をすることなく不仲の間柄であつた。申立人は昭和三三年九月六日妻さよとともに上田市の借家住から肩書地住宅に移居しようとしたが、相手方においてこれを妨げたので、やむなく申立人のみ移居し、爾来母と同居してきた。そこで申立人と相手方間と互に明朗な生活をしていくため同月二二日相手方の住宅及び耕作地の分配などについて協定をした。その協定事項中に相手方はその住宅を翌三四年三月末日までに建築して申立人と別居することとし、申立人がその費用として一〇万円を支払うこととなつたが、相手方においてこれを履行しないばかりでなく、申立人の妻が母の病気その他の用件で本件住宅に帰宅すると同女に対し暴言を吐き、或は暴力に出でようとするなど申立人の平和な家庭生活を脅かしいるものである。他面申立人の上田市にある前記借家の明渡期限も過ぎ家主から強硬な明渡要求を受けているが、これが履行し得ない状況にある。よつて申立人は相手方に対し前記協定の趣旨に従つて同三四年一〇月末日までに住宅を建築の上、相手方の肩書地住宅の使用部分(階下玄関にある階段、茶の間六畳、穀物部屋、味噌部屋、勝手四・五畳、その土間並びに階上蚕室、居間六畳、物置と便所三坪五合)を明渡すこと、但し上記明渡期日まで穀物部屋と便所は申立人との共用のこと、相手方は申立人に対し前記住宅の内北側居間六畳を同年七月一〇日までに明渡すこと、申立人は前記居間の東側に境を設けること、相手方の造つた前記住宅の玄関入口東側軒下の鶏舎は不潔で採光の妨げともなるので相手方において前記七月一〇日までに相手方の牛舎南側に移すこと(その移転費は申立人において負担)を求めるというにある。

そこで本件事実調査の結果によると、申立人は相手方の兄で旧高等小学校卒業後自家農業に従事してきたところ、父一郎が明治四一年死亡し、その家督を相続した後大正一〇年長野県○○○になり、県内各署に勤務、昭和一七年退職、同二一年まで○○○、その後同三三年三月まで上田市で借家して日本○○○社○○支部参事として勤務してきたものであるが、家族は母みえ(当八八才)と妻さよ(当六三才)の二人で、同年九月初旬妻を上田市に置いたままその所有にかかる肩書地住宅に戻つて母と起居することになつた。相手方は旧尋常小学校卒業後子守奉公をしていたが、申立人が大正三年頃兵役に服したため一旦帰宅自家農業を手伝い、申立人除隊後同七年頃から山梨県下製糸工場の教婦となつたが、申立人が前記○○○となつて他出することとなつたので、申立人から母の扶養と自家営農を托され、昭和一五年頃倉田良雄を婿としたけれども、同人が農業を嫌い間もなく家出し、同二八年三月再び呼戻したが、同棲一年ならずして家出してしまい、その間相手方がいわゆる農地改革の際申立人所有の農業資産を管理していたため政府買収の対象となることなく、相手方一人で田畑約八反四畝二〇歩を管理耕作(内現在約四反九畝一九歩を耕作)してきたものである。そこで申立人は相手方の約三八年にわたつて母の扶養と申立人の農業資産を維持してきた労苦に対し相応な財産分与も考えているようでもあるが、当事者双方とも我欲強く、殊に相手方は教養の程度極めて低く、申立人夫婦がとかく教養のない相手方を蔑視し、又申立人等に対し事毎に暴挙に及び、申立人の妻と肩書地で同居できない状況であつたので同三三年九月二二日○村助役田崎利夫外三人の斡旋で当事者互に明朗な余生を送らしめるべく申立人と相手方との各耕作農地の分配及び相手方の住宅の新築などについて協定が成立し、相手方は翌三四年三月末日までに相手方使用の畜舎と薪小屋の間に住宅の建築に着工し、申立人はこれに対しその着工の際相手方に一〇万円を支払い申立人等と別居することになつたが、相手方は未だこれが建築に着工することなく申立人所有の肩書地住宅の内階下玄関にある階段、北側居間六畳、茶の間六畳、穀物部屋、味噌部屋、勝手四・五畳、その土間並びに階上蚕室、居間六畳、物置、便所三坪五合を使用していることが認められる。けれども折角田崎利夫等の努力によつて相互の紛争を避けるために前記協定成立しているものであるから、この趣旨に従つて互に信義にもとづいて誠実にこれを履行することを期待するとともに相手方が速かに前記住宅を建築し、申立人と別居するまでの間互に相手の平和な生活を脅かす一切の言動を禁ずる要あるものと認め主文の通り審判する。

(家事審判官 山口昇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例